法人名義購入
〜医療法人〜

以前のコラム【個人・法人名義購入の違いとイメージ】で、購入名義の違いのお話をさせて頂きました。

今回は医療従事者の方向けに、医療法人での購入について説明したいと思います。

そもそも医療法人とは?

医療法人は病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設または介護医療院の開設を目的として設立される法人です。

これは医療法第39条で定められています。医療法人の趣旨は「医業の主体を私人から法人に変更することで、医療体制の確保を図るとともに、資金の集積を容易にする」というものです。医療の安定的普及および高度化を図って、国民の健康維持に寄与することを目指します。

厚生労働省の「医療施設調査」によると、クリニックの医療法人設立割合は年々増加しており、2021年時点で一般診療所総数の43.2%を占めています。1999年時点だと24.8%なので、約20年間で20%近く上昇しています。

個人開業医との違い

医療法人においてクリニックを所有・経営するのは、院長個人ではなく法人格となります。

医療法人は「非営利法人」なので、クリニックの資産や事業で得た収入は、院長や理事長であっても自由に使えない点が個人開業医との大きな違いです。ただし、非営利性を前提にしているといっても、利益を上げること自体は否定されていません。「余剰金の配当」をすることが禁止されています。

違いを簡単に下記にまとめます。

個人開業医 医療法人
開設条件 各種届出の提出のみ 都道府県知事の認可が必要
開設数 1ヶ所のみ 分院などの開設が可能
業務範囲 病院・診療所 病院・診療所・介護医療院など
登記 不要 必要
決算日 12月31日 1年以内で自由に設定可能
決算書 不要(青色申告書は必要) 必要
役員報酬 なし(利益の一部が院長の収入) 1年固定で自由に設定可能

医療法人設立の要件

医療法人設立の要件は、大きく分けると「人的要件」「資産要件」「その他」の3種類があります。

人的要件としては、役員として理事3名以上・監事1名以上を置くことが原則で、理事の中から一人、代表者たる理事長を選出します(医師もしくは歯科医師のみ)。また、医療法で定められている欠格事由に該当する者は役員には就任できません。さらに、欠格事由をクリアしていても、理事の場合は未成年者(代行に関する例外規定あり)・取引関係のあるメディカルサービス法人の役員・公務員、監事の場合は未成年者・医療法人の理事または職員との兼務・公務員、は理事・監事に就任できません。

次に資産要件ですが、2ヶ月分の運転資金を拠出すること、業務に必要な資産(医療施設・医療設備・備品など)を有すること、とされています。

その他に、クリニックの土地・建物は医療法人が所有していることが望ましく、賃貸借契約の場合は、長期間の契約(10年以上)であれば認められます。

なお、医療法人の経営は長期安定的であることが求められるので、都道府県によっては個人としての開業実績が要件となるケースもあるようです。個人経営のクリニックで実績を積んでから法人化するのが一般的ですが、最初から医療法人を設立しての診療所開設も不可能ではありません。

医療法人の仕組みと運営

医療法人は、一般的な株式会社と類似した仕組みで運営されます。

例えば、株式会社なら株主総会によって意思決定がなされますが、医療法人は代わりに「社員総会」がその役割を果たしています。そして、株式会社の執行機関である取締役会は「理事会」に、監査機関である監査役は「監事」に当てはまりますが、これらは社員総会が選任するものです。

また、医療法人の設立後は、以下のように定期的な業務および運営上の義務が発生します。

社団医療法人と財団医療法人

医療法人は大きく分けると「社団医療法人」と「財団医療法人」の2種類がありますが、ほとんどは前者です。

社団医療法人(以下、社団)は、病院や診療所などの設立を目的とする「人」が集まって設立されます。先に解説した医療法人の概要や要件は、主にこの社団に当てはまる内容です。一方、財団医療法人(以下、財団)は、一定の目的のために寄附などで集められた「金銭」や「財産」に基づいて設立されます。こちらは出資の概念がないため、持分がありません。

社団医療法人は出資持分の定めによる分類がある

社団は出資持分の有無によって「持分なし」「持分あり」に区分されていますが、それぞれ出資の払い戻しや残余財産の帰属先に違いがあります。

2007年施行の第五次医療法改正により、新規設立できる医療法人は持分なしに限定されました。代わりに「基金拠出型法人」が新設されましたが、これは基金制度を利用している持分なしの医療法人のことです。基金として拠出された金銭や財産については、医療法人が拠出者に対して返還義務を負います。

また、現在は持分ありの医療法人を新たに設立できませんが、以下の条件を満たす「既存の出資持分のある医療法人」に関しては、当分の間は存続することを認める経過措置がとられています。

* 出資限度額法人とは、持分ありの医療法人における一類型です。出資持分の払い戻しや残余財産の分配について、払込出資額を限度とする旨を定款で定めているものを指します。

社会医療法人と特定医療法人

社会医療法人は医療法、特定医療法人は租税特別措置法が定める細かい要件をクリアすることで設立できる、より公益性が高いと認められた法人です。社団・財団のどちらも対象ですが、社団は持分なしに限定されています。

社会医療法人は2007年施行の第五次医療法改正によって新設されましたが、その背景には「医療提供の存続」という課題があります。自治体病院が担っていた救急医療や僻地・離島医療に携わってもらい、地域医療存続や赤字解消を実現させることが狙いです。

一方、特定医療法人は1964年に創立された類型です。医療の普及・向上や社会福祉への貢献、その他公益の増進に対する寄与が大きい事業を展開しており、なおかつ国税庁長官から公益性の承認を受けたものを指します。社会医療法人・特定医療法人における最大のメリットは、税制上の優遇措置を受けられることです。社会医療法人だと法人税や固定資産税が非課税になる、特定医療法人だと法人税の軽減税率が適用されるので、結果的に節税につながります。

医療法人の設立登記の流れ

医療法人を設立する場合、クリニック本院のある都道府県に申請して、都道府県知事の認可を得る必要があります。

都道府県によって設立のフローは多少異なりますが、まずは必要書類や役員となる人員をそろえて、設立総会を開くのが基本です。
下記に、設立までの大まかな流れをまとめました。

審査は随時行っているわけではなく、都道府県ごとに期間が決まっているため、そこから逆算して早めにスケジュールを組むことが大切です。また、認可が下りた後に開業手続きを行いますが、すでに個人開業済みで法人化する場合、個人経営のクリニックを一旦廃業して新たに医療法人として開業し直す必要があります。

都道府県をまたいで開設する場合

先述の通り医療法人を設立すれば、本院以外にも医療施設を開設できるようになります。

本院とは別の都道府県にクリニックや介護老人保健施設などを開設する場合は「広域医療法人」となり、厚生労働大臣所管の医療法人の設立認可を受ける必要がありました。しかし、2015年4月1日の法改正によって「主たる事務所の所在地の都道府県知事」に認可権限が移譲されています。

そのため、都道府県をまたいで開設する場合でも、手続き自体はほとんど変わりません。

外国人が不動産を購入する場合、登記や届出などで書類の用意が必要になります。国によって発行場所が異なる場合や、書類の取得までに1か月前後時間がかかる場合もありますので、早めの相談・ご準備をお勧めします。

医療法人のメリット・デメリット

医療法人のメリット

医療法人は個人開業医と違い、複数の医療施設を開設することが認められています。新たに分院を開設したり、附帯業務として有料老人ホームを設立したりするなど、経営規模の拡大が可能です。

そして、節税効果が見込める点も見逃せません。個人開業医が納める所得税の税率は最大45%で、住民税を加えると55%にもなりますが、医療法人が納める法人税はそれよりも税率が低く、法人事業税を加えても30%程度まで抑えられます。所得税は累進課税制なので、医業利益が多くなるほど医療法人化による節税メリットが大きく、手元に残るお金を増やせるのです。

医療行為の対価として得た収益を、営利企業であるプライベートカンパニー(資産管理法人)で受け取ることはできません。つまり、メインの勤務先以外から受け取っているアルバイト代などをプライベートカンパニーでそのまま受け取るようなことをしてしまうと、税務調査で追徴課税が課される危険性も十分に考えられます。

また、子孫にクリニックを継がせる場合、個人開業医だと相続税がかかりますが、医療法人なら理事長を変更するだけで済むので、相続税対策にもなります。さらに、役員退職金を経費として準備できることも医療法人のメリットです。税率も低いので、多くの退職金を受け取れます。さらには、銀行から融資を受けるにあたり、個人開業医より医療法人の方が、信用度として高い点もあります。

医療法人のデメリット

医療法人は従業員数を問わず、役員・従業員ともに社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務が発生します。医療法人と従業員の労使折半となるため、保険料の負担が増加することがデメリットです。

さらに、医療法人を設立すると、事務作業が煩雑になります。毎年の事業報告書の作成や資産登記、理事会や社員総会の開催など、仕事量の増加は避けられません。まず法人設立の際もさまざまな手続きを行わなければならないため、この点にハードルの高さを感じて法人化を躊躇してしまう先生も多いようです。

また、現在は持分なしの医療法人しか設立できない関係上、法人の残余財産が国または地方自治体に帰属するので、解散時に返還請求ができないことや、医療法人の財産を子孫に残せないこともデメリットとなります。

医療法人の運営管理指導要綱の改正

医療法人の遊休資産、「特別な事情」あれば賃貸も可能

医療法人が保有する「遊休資産」(土地・建物)について、厚生労働省は「原則、売却」などを求めていますが、将来使用する可能性があったり、売却が困難だったりするケースでは賃貸も認める考えを明らかにしました。厚労省医政局長が2015年5月21日付で都道府県に通知した、医療法人の資産に関する「運営管理指導要綱」の改正の中で示されたものです。

主な改正点は、医療法人が保有していて現在は使用していない土地・建物などについては、「長期的な観点から医療法人の業務の用に使用する可能性のない場合、売却するなど適正に管理・整理することを原則とする」ことや、「売却などが困難な場合には、事業として行われていないと判断される程度に賃貸しても差し支えない」などの規定を追加しています。

賃貸では、「医療法人の社会的信用性」損なわないように

医療法人には非営利性が求められており、適正な資産管理が必要です。また、非営利性の観点から保有資産を賃貸する業務を行い、収益を得ることも原則できません(社会医療法人になれば可能)。

医療法人の保有する資産のうち、いわゆる「遊休資産」の管理を適正なものとするために今回、「病院又は老人保健施設等を開設する医療法人の運営管理指導要綱」の一部が改正されました。具体的には、「現在、使用していない土地・建物などの遊休資産」を、次のように扱う規定が新たに盛り込まれています。

(原則)
長期的な観点から医療法人の業務の用に使用する可能性のないものは、売却するなどの適正な管理・整理を行う
(例外)

以下の場合には、「事業として行われていないと判断される程度」において賃貸することが認められる

ただし、賃貸する場合でも、「医療法人の社会的信用を傷つけない」ことや、「開設する病院などの業務の円滑な遂行を妨げない」ことなどに留意しなければなりません。

今回は医療従事者の方向けに、医療法人について説明させて頂きました。 不動産を個人名義で購入するか・法人で購入するか、法人を設立する場合は資産管理法人にするか・医療法人にするか。 是非参考にして頂ければと思います。

執筆   瀧原 朋子

 

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